渋谷109。私、帽子屋は、そこに店を構えていた。
あのいまいましい女王が、ティラミスになり、
働き者だったうさぎの少年がハトサブレにされ、
お菓子の建造物をすべてを建設していた魔女が、
通りすがりの女の子にお菓子にされて食べられた。
もうあの国は終わりだろう。
そう見切りをつけた私、帽子屋は、思い切って外に店を出してみたというわけだ。
この圧倒的センスと、人を見る目で、次々と有名人のご指名帽子屋となり、
渋谷では、今ではちょっとした人気者である。
さて、私帽子屋が、紅茶を片手に、こんな話をするのは、
何やら店に来た金髪の少女が、目を輝かせながら質問してくるからだ。
私はいろいろ話して聞かせてやった。今はなくなったお菓子の国の物語を。
お菓子の魔法の杖は、物語と共に、その少女に渡した。
国はもう滅びたし、滅ぼした少女は記憶にすらないだろう。
私は思う。どんな世界も、必ず終わりが来る。
それは取るに足らない理由なのか、偶然招かれた少女なのか、
とにかく終わりは来る。
では、そこにあったものはなくなってしまうのか。
そんなことはない。誰かが物語りを紡ぐ限り、
消してなくなったりはしない。
いつしか、歪で、不完全な、だけど素敵なお菓子の国は、
今日、あなたが降りるマンションのエレベーターの
あるはずのないB1のボタンを押したら、
現れるのかもしれない。
おわり