お菓子な家は、建造中だった。柱と梁はあるが、壁が取り付けられていない。
私は家の外から、チョコレートの壁の隙間と隙間から、
そのお菓子の家の建造の様子を目撃していた。
汗水たらして、屈強な男が家を建てている。
というわけではなく、そこにいたのは、とても可愛らしい魔女だった。
ブロンドヘアーで、とんがり帽子。フリルの付いたスカート。
食べちゃいたくなるような白くて細い足。
お菓子の家の魔女は、魔法のステッキを持っていた。
テーブルの上には、おいしそうなチョコレートケーキ。
その魔法のステッキを振りかざすと、チョコレートケーキは、長さ1メートルくらい板チョコになった。
お菓子の家で働いているのは、お菓子な魔女だけではなかった。
よく見ると、使い魔として、ハトサブレが、建築資材を運んでいるのがわかった。
板チョコは建物の壁として、別のハトサブレが運んでいった。
このハト、飛べるんだね。
板チョコの壁が無事に運ばれ、取り付けられたのを確認すると、
魔女はクルクルまとめた紙を机に広げた。何かの図面・・・かな。
それを見ながら、また魔法のステッキを手にした。
働いているのは、ハトサブレだけではなく、生物型のお菓子が
必要に応じて仕事をしているようだった。
1時間ほど、作業をすると、魔女は疲れてしまったのか、部屋にあるベットに
横になり、すやすやと眠り始めた。眠っている姿も、とても可愛らしい。
私は、抜き足差し足で家の中に入った。
テーブルの上の書類を見ると、やはり設計図だった。
横に、なにやら細かい計算式が書かれている。
「お菓子を主要構造部に使う上での技術指針」
「お菓子を不燃材料とみなす場合の緩和規定について」
「お菓子をお菓子の家で働かせるための労働基準」
「白ありへの対策100選」
すごく難しそうなタイトルだったので、私は読むのをやめた。
かわりに、魔法のステッキを手に取った。
振りかざしてみると、板チョコはケーキになった。
もう一度振りかざすと、ケーキは板チョコに戻った。
どうやら、この魔法のステッキは、物をお菓子にすることが出来るらしい。
この女の子に振りかざすと、どうなるんだろうか。
ふと私はそう思い、魔法のステッキをお菓子な魔女に振りかざした。
ケーキになった。
ショートケーキ。とんがり帽子には不思議な色のイチゴ。
白い肌そっくりのクリーム。
女の子の目の前に、そんなおいしそうなお菓子が現れれば、
どうなるか想像に任せる。
私は、そのステッキを手にして、お菓子な家をあとにした。
笑みがこぼれるくらい甘いケーキだった。
つづく