第五章

「いそがなくっちゃいそがなくっちゃ」

お菓子な魔女に白ウサギに変えられた「少年」は、

魔女の家で、ため息をつき、呟いた。

食べてもおいしくない。という理由で、お菓子な魔女から、

働くことを前提にこのお菓子な世界で暮らしている。

お菓子な家に寄って、城に向かったら、結局遅刻して、

女王様にこっぴどくしかられ、

魔女に手紙を届けようと、お菓子な家に戻ってきた時には、

魔女はいなく、魔法のステッキもなかった。

あれがなくなると、また女王様にしかられる。

今度は、白ウサギじゃなく、ハトサブレにされてしまうのではないかと思う。

もともと、白うさぎの役目に王女から任命された人材は、

100人くらいいた。しかし、

女王が気に入らないうさぎをハトサブレに変えていくものだから、

今では、僕一人しかいない。

ハトサブレと、白うさぎのどちらが良いか。

そう聞かれると少し難しい。

ハトサブレは、飛んだり出来るけど、

白うさぎは、走り回らなきゃいけない。結構疲れる。

女王から人参をくれるから働けと言われると、

なぜか逆らえない。

誰かにかまってもらえないと、なにか寂しい気持ちになる。

しかし、ハトサブレになった時に、まあ、魔女の手下として、

建設現場で働くなら別にいい。

ちょっと大変そうだけど、意外と魔女は優しそうだし。

でも、女王の側近に配属されたら最悪だ。

「首をはねておしまい!」といつ言われるか。

怯える日々を過ごすのだ。

最近では、側近のハトサブレが女王に首を折られすぎて、

魔女の手下のハトサブレが駆り出されているらしい。

そう考えると、やはり白うさぎのままでいた方が、

いいに違いない。そう思う。

と、そこまで考えて、やはり魔女と、持っていた杖を

回収しなければならない。

魔女の家の中を見渡す。いつも通り、ハトサブレが働いている。

机の上を見る。図面が置かれており、

いつもの魔女の作業場所と同じだ。

しかし、一つ違いがあった。

テーブルの上に、白いお皿と、ティーカップ。

おかしい。

魔女は、甘いものが嫌いなはずだ。

どう考えても、誰かがケーキを食べたように見える。

あと、紅茶も。

つまり、こうは考えられないか。

誰かが、魔女の杖を奪い、お菓子の魔法で、

魔女をお菓子に変えて、食べてしまったのだ。

なんというひどいことを。

そうなると、まさか、侵略。

このお菓子の世界を食い尽くして滅ぼそうとする

悪の化身が、この世界にやってきたのではないか。

まさか、この悪の化身は、お城に向かい、

女王に危害を加えようとしているのではないか。

この件は、手紙として、書き留めておく。

願わくば、もし僕がお菓子に変えられて食べられてしまったら、

代わりに仇を討ってほしい。といっても、このお菓子の国には、

あとは帽子屋しかいないのだけど。

・・・

後日。お城の入り口で、粉微塵になったハトサブレが発見された。

青い服の少女がお城に入城した日と、

偶然なのか、同日の出来事である。

その後、白うさぎの少年の姿を見たものは誰もいなかった。

つづく