home > 小説 > 3章「煉獄の王国魔女ナルシア」 > 3.2 本と魔女と無限図書館
「よく来たわね。歓迎するわ。」
アルケミストの魔女は、言った。大きなお屋敷。その中にある図書館。
「ここは無限図書館。私の家系の一族が記録して来た全ての魔術と歴史がここに残っている。」
「気を付けてね。全て禁書だから、常人なら読んだだけで発狂するわよ。」
時計の針は、11時を回った。
アルケミストの魔女は、話好きらしい。私が図書館に訪れてから、まる2時間。ずっと喋り続けていた。どうも話を聞くと、一族のしきたりに従いほとんどお屋敷の中からは出ないらしい。かつて世界には1000年前に「魔女」と呼ばれる存在がいて、地球の世界地図上から隠された地方、魔法の国「レナ・フィールド」で繁栄を極めていた。その魔女の血筋の末裔が、アルケミストの魔女だった。正直、私はにわかには信じられない話。私は歴史の教科書でそんな話を聞いたことはない。でも嘘を言っているようにも思えなかった。
以下が、魔女の年表だ。この年表を説明するのに、さらにまる2時間、アルケミストの魔女はしゃべりっぱなしだった。
レナ・フィールド年表
0年
空の世界に住む「天界人」は、天使「ルシフェル」を作り出す。これは魔法使いに対する兵器であり、
大樹ユグドラシルのマナを力とする魔法使いの古代文明「メギド」と長きに渡る天界と地上の戦争が始まる。
500年
戦争が激化し、天使「ルシフェル」は倒されるが、代わりに大樹ユグドラシルが枯渇する。
マナを失い、ほとんどの魔法使い達は地上に住むことのできなくなる。
地上を捨て、地下に残るユグドラシルの根っこの魔力を求めて、
地下へと魔法使い達は移住する。
戦争の中で、マナに頼らずに使用できる火・水・風・地・雷の魔術の原型が生まれる。
また、中でも強力な兵器であった風の魔法より作られた「エアフォート」は封印されることとなる。
1000年
ユグドラシルの枯渇は進み、魔法使い達はさらに根っこの残る地下へと潜っていく。
1010年
のちの「魔王の城」と呼ばれる孤島に「ルーネ」と「魔女レナ」が生まれ、育つ。
「ルーネ」の病気が悪化。レナは最大の治癒魔法を持って治療を試みるが、
治療は失敗し、副作用によってルーネは醜い怪物となって、死亡する。
しかし、諦める事の出来ないレナは、死体の一部から「ルーネ」を蘇らせる
おぞましい反魂の魔術の研究を始める。しかし、結局上手くはいかず、二度とルーネは蘇ることはなかった。
この反魂の魔術の研究によって、水の魔法は大幅に進展し、治癒・蘇生の魔法が大幅に進み、結果的に数多くの人々が救われる。
1020年
研究には膨大な時間がかかることを予見し、始められた「永遠の命」の研究の一つにより、
「魔王」と呼ばれる存在が作り出される。
また、数多くの実験体たちは魔物として人々を脅かすようになる。
また、この時に自分の魔術の限界を悟った「レナ」は自身に対して転生魔術を行い、以後行方不明。
これにより、孤島は「魔王の城」と呼ばれるようになり、周辺の海域は「海の神リバイアサン」に
支配され、海路は大幅に制限される。
この時から、大陸を海を介して渡る事はほとんど不可能となり、火の魔法のグロマイル大陸と、地の魔法のイルド大陸の
2つの大陸は文化的にも分断され、独自の文明を築くこととなる。
1100年
グロマイル王国の「煉獄の魔術」が「ナルシア」によって完成する。
王国の英雄と、法術士、魔女、戦乙女の4人の勇者によって、魔王が倒される。
魔王を倒す為、「ナルシア」は人々を生贄にして「神」を召喚する儀式を完成させ、使用する。
1110年
王国は、魔女から「煉獄の魔術」を奪い、その力で各地侵略を開始する。
1200年
煉獄の魔術によって、100年王国と言われるほどに成長したグロマイル王国。
腐敗した王国の元老院の命令により、罪も無い風の魔法使いの小さな村の人々が虐殺される。
唯一の生き残りである「シルフィー」によって、かつて古代文明「メギド」の所有していた
「エアフォート」を起動させ、その力により王国に反旗を翻し、その圧倒的な機械兵達の力で王国を滅ぼす。
王国の全てを奪い、イルド帝国までも侵略し、文字通り「世界制服」を達成する。
しかし、最終的には、奴隷にした人々の裏切りに合い、「シルフィー」は処刑される。
エアフォートの軍隊「空挺」も解体され、力によって始まった空挺の世界支配は、僅か10年で終わる。
1250年
独自の文化を発展させるイルド大陸。そこでは、ユグドラシルの根っこの魔力を使った、
地属性の魔法が主流となっている。地属性の魔法は他の属性と違い、「マナ」がなければ全く使う事が出来ない。
古代文明「メギド」のある地下深くのユグドラシルの根っこ。
真実に近づいた罪人として、魔法使いの一族であった幼き「クロノア」は、
魔力を奪われ地上に追放されてしまう。
彼女は地下に眠ると言う自分の魔力を取り返しに、ユグドラシルの最下層を目指す。
また、この時代、大気中のマナはほとんど失われており、代わりの「マナ」のエネルギー源として、
魔力を鉱物に込める「マテリアライズ」と呼ばれる魔法が地属性の魔術として主流になる。
この技術は、のちにカードに魔力を込める「スピリアマテリアル」の原型となっている。
2000年
スピリアマテリアル。魔女の持つ魔導書や魔物を記号化し、その力を使う事が出来る。
「これが、スピリアマテリアルカードが出来た歴史よ。分かった?」
アルケミストの魔女は上から目線で話した。上から目線も可愛い。
「それじゃあ、私はお茶を入れてくるけど、絶対にこの図書館の中にある本は読んじゃだめだからね。何度も言うようだけど、読むと大変なことになるからね。」
そういうと、アルケミストの魔女は図書館の部屋から出ていった。
時計は17時を回った。
もうそろそろ帰らないといけない。だけど、気になる本が実は一つだけある。
本のタイトルは「煉獄の王国魔女ナルシア」。私が好きないわゆる中世ものの本のようだ。アルケミストの魔女は本を読んではいけないと言っていたけど、どうしても読んでみたい。あと、アルケミストの魔女の怒った顔をちょっと見てみたいというのもあった。
「少しくらい、開いて目次を見ても構わないよね?」
そう思った私は、本を開いて、ページをめくり始めた。